ワイナリーの立ち上げとワイン醸造にかかるコスト【よくあるご質問】

ワイナリーの新規立ち上げやワイン醸造の支援を行っている上で、よくあるご質問とお伝えしている内容についてまとめました。

目次

Q. ワイン造りにかかる費用は?

ワイン造りを始める方法や状況によって費用も色んなパターンが考えられますが、個人の方がリタイアしてワイン造りをしたいという場合、ご自身で栽培から醸造まで一貫してやりたいというご相談がほとんどです。

個人の方であれば最初から人を雇うという余裕や人材の確保が難しいということから、ご家族のみで運営をするパターンで考えたいと思います。

ブドウ栽培にかかるコスト

まず、ご夫婦2人でやる場合、畑を管理できるサイズがある程度決まってきます。

大体1人あたり1haとして、2人で2haが目安でしょうか。ワインに換算すると多くて年間で1万6000本くらい生産できる大きさです。

ただ、ワイン用ブドウの場合、ワインにする品質のブドウに育つまでに最低3年はかかります。さらに、収量が安定するまでに最低5年を要します。それまではブドウは買いブドウで賄うか、ワイン造り以外で収入源を確保する必要があります。

以下、畑の取得から栽培にかかるコスト 
(※それぞれ条件によってコストが大幅に変動するため、あくまで一例です)

➀土地を取得する費用 約600万
②造成費 約600万(土地によってはゼロの可能性もあり)
②苗木の費用 約1200万
③資材の費用 約700万
④農業機械の費用 約300万

合計約3400万円くらいかかるイメージです。

その他肥料や農薬など、ランニングコストが1年で約140万円かかります。

ワイン醸造にかかるコスト

醸造にかかるコストは他の施設を借りて行う委託醸造で行うか、自分たちで一から建てるかの二通りがあります。

➀委託醸造の場合

委託醸造の場合、委託先のワイナリーで大幅に差があります。

ワイン1本に対して委託醸造費が発生し、1,000円~2,000円/1本 前後で設定している所が多いです。委託先の設備や条件などに差があるため、単純に金額だけで安い/高いという判断にはなりません。

ブドウの収量が安定してワイン生産量の最低要件(ワイン特区がある/ないで違う)を満たせるまでは、委託醸造をすることになります。

②自社で施設をもつ場合

最初は委託醸造をしても、将来的には自分でワイナリーを持つというのが一般的です。しかし、ワイナリーの建設には莫大な費用が発生します。

大きく分けて【建物自体の費用】と【醸造機器の費用】があります。

これも既存の施設を利用したり中古の醸造機器を利用したりと振れ幅は大きいですが、施設と醸造機器を合わせて最低4,000万円くらいかかると考えて良いでしょう。

それに加えて水道光熱費などの維持費も発生します。

Q. 買いつけブドウでワインを造る場合の費用は?

自分たちで畑をやらずにブドウを買い取る場合はどうなるかというご質問も稀にいただきます。

➀ブドウは契約農家からの買取
②自社でワイナリー施設を持つ
③年間1万本程度の生産

という条件で考えたときにかかるコストは以下の記事でご説明しておりますので、ご参考いただければと思います。

ちなみに「ブドウを買い取れる」ことを前提にしていますが、実績がない中で農家さんからブドウを譲ってもらえることは現実的には厳しいです。

ワイン醸造をどう学ぶかを考える

こちらはお問合せいただいた方に、お伝えをすることが多い内容です。

ワイン造りは職人仕事

そもそも、ワイン造りというのはブドウ栽培も含め「職人仕事」だと考えています

なので、まずはアシスタントや研修生としてワイナリーで栽培や醸造の経験を積み、自分も醸造家を目指すという姿が本来の姿であると考えています。また、ワイン造りは感覚的にできるものではないので、自分で知識を習得していくという学術的なバックグラウンドも必要です

私自身今だからこそ「醸造家」を名乗らせていただいていますが、それまで積み上げてきた知識や経験、実績から自信がついて名乗れるようになったのに7年かかりました。年数が問題なのではなく、ブドウ栽培やワイン醸造はそれほどに奥深いということです。

しかし、日本の現状だと、経験がほとんどない中でワイン造りを始めたいという方が多いように感じます。もちろん、それを否定するつもりはありません。ワイナリーでの修行を経ずとも、まずご自身でワイン造りながら学ぶという方法も成立しているからです。また、今の日本のマーケットではそれでもワインが売れているのが現状です。

しかし、将来的には日本でも品質によって「造っても売れない時代」がくると考えています。

それぞれの造り手がワインとしてのクオリティを担保できた上で、スタイルとしての「多様性」で自分のワインをポジショニングできれば良いですが、そもそも品質が担保できないとどうなるか?そしてその品質を日本の消費者に届けることが社会のためになるのか?という想いがあります。

要は、ワインを造りたいと考えたときに、それが現実的かどうか費用面で将来設計をすることも重要ですが、その前に「どうワイン醸造を学ぶか?」を考えることも非常に重要だと思います。

ワイン造りの入口が広がればおもしろい

日本ワインはまさに今、文化として醸成するために重要な過程を踏んでいると思います。

その中で先に述べたように、「ワイン醸造家」が職業として目指しやすい環境にあれば一番良いのかもしれません。しかし、そうはいかない今の日本で、限られた人や条件でないとワイン造りができないという状況では、日本ワインは浸透していきません。

私自身経験がまったくなかったところからワイン造りを始め、今こうして醸造家として活動できているのは、周りのサポートがあったからこそです。たくさんの方が教えてくれたり知識を共有してくれたことで、何か一つの考えや方法に固執することなく、基礎を学びながら徐々に自分のスタイルを築き上げてこれたと思っています

そうしてこれまで頂いたご縁や知識を、今度は自分が還元していきたいと思い、サポート事業を立ち上げたという経緯があります。

この先日本で「ワインを造りたい」と熱い信念をもつ人たちがしっかりと品質の高いワイン造りができる環境があること、そしてワインとして美味しいものが世に出て日本ワインのマーケットが広がっていく、というのが理想だと思っています。

JAPAN WineGrowersが持っている知識や経験の共有が、少しでもそうした理想への一助になればと思います。

入口は何であれ、美味しいものを造りましょうということです。

麿直之

WineGrower 麿直之(マロナオユキ)

2014年 外資系製薬会社のMRを辞めワイン醸造家としての道へ
北海道にあるワイナリーの立ち上げから携わり醸造責任者を務めながら冬の間は南半球で修行を積む。
世界最大のコンクール’DECANTER WORLD WINE AWARD2020’にて自身が醸造した赤ワインで金賞受賞。
2021年にはアメリカの権威あるプログラム’UC Davis Winemaking Certificate Program’を修了する。
2023年に醸造設備をシェアできるHokkaido SPACE Wineryを長沼町に立ち上げ、自身のブランド【MARO Wines】を手掛ける。

WineGrower 麿直之(マロナオユキ)

2014年 外資系製薬会社のMRを辞めワイン醸造家としての道へ
北海道にあるワイナリーの立ち上げから携わり醸造責任者を務めながら冬の間は南半球で修行を積む。
世界最大のコンクール’DECANTER WORLD WINE AWARD2020’にて自身が醸造した赤ワインで金賞受賞。
2021年にはアメリカの権威あるプログラム’UC Davis Winemaking Certificate Program’を修了する。
2023年に醸造設備をシェアできるHokkaido SPACE Wineryを長沼町に立ち上げ、自身のブランド【MARO Wines】を手掛ける。

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